子犬

保護犬を迎える|手順・費用・最初の1か月

出典あり

譲渡会の会場で、しゃがんで顔を寄せる人と、バンダナをつけた茶白の犬
Photo: Sgt. Valerie Eppler(Public domain, Wikimedia Commons)

「保護犬を迎えたい。でも、どこに行けばいいのか、いくらかかるのか、うちで飼えるのか分からない」。迎える前に止まっている人の多くは、気持ちではなく手順で止まっています。

先に全体を書きます。保護犬の入口は、自治体の動物愛護センターと民間の保護団体の2つです。どちらも、問い合わせ→講習→面談・審査→譲渡→役所での登録、という順で進みます。環境省は「譲渡の条件は各施設により異なる」と明記していて、費用も一律ではありません。そして迎えたあとには、狂犬病予防法とマイクロチップの法律で決まった手続きが待っています。

この記事は、その手順と費用の骨組み、法律で決まっている手続き、そして来歴が分からない犬と暮らす最初の1か月を、環境省と厚生労働省の一次情報にもとづいて整理します。

保護犬を迎える流れ。問い合わせ、講習、面談と審査、譲渡、役所での登録。入口は自治体の動物愛護センターと民間の保護団体

この記事で学べること

  • 日本で1年間に、どのくらいの犬が引き取られ、譲渡されているか
  • 自治体と民間団体、2つの入口の違い
  • 問い合わせから譲渡までの手順と、よくある条件
  • 費用の考え方。譲渡費用・法律の手続き・最初にそろえるもの
  • 迎えたあと30日以内にやることと、最初の1か月の暮らし

今日やることは1つ。 住んでいる都道府県または市の「動物愛護センター」のサイトを開いて、譲渡の条件のページを読んでください。多くの施設が「県内在住」などの条件と、講習の日程を載せています。

記事執筆における出典

保護犬は「かわいそう」「大変」のどちらの言葉でも語られますが、飼い主に必要なのは手続きと暮らしの実際です。何をもとに書いたかを先に示します。

  • 引取り・返還・譲渡・殺処分の頭数 ── 環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」(令和6年度)
  • 譲渡の条件と手続き ── 環境省「収容動物検索情報サイト」の譲渡会等のお知らせ。各自治体の条件・講習・審査・費用の記載
  • マイクロチップの変更登録 ── 環境省「犬と猫のマイクロチップ情報登録について」、および川崎市の制度説明ページ(30日以内の変更登録、手数料)
  • 犬の登録と狂犬病予防注射 ── 狂犬病予防法 第4条・第5条(取得後30日以内の登録、年1回の注射)と、厚生労働省「犬の鑑札、注射済票について」(鑑札・注射済票の装着)
  • しつけの方針 ── 米国獣医行動学会(AVSAB)の声明。罰を用いる手法を推奨していません
  • 最初の1か月の組み立て ── 上記の資料と、子犬を迎えた最初の1週間にやることをもとに、BAUDOGが構成しました

譲渡費用や登録手数料は自治体・団体ごとに違います。この記事では特定の金額を「相場」として書きません。 健康の話は「気づいたら病院へ」までです。

数字で見る保護犬(令和6年度・犬)

環境省の統計
自治体に引き取られた犬17,399頭
飼い主に返還された犬6,630頭
新しい飼い主に譲渡された犬8,797頭
殺処分された犬1,964頭

対象期間は2024年4月1日〜2025年3月31日です。引き取られた犬の半分が、新しい家庭に譲渡されています。 この記事を読んでいる人は、その8,797頭の側の話をこれから始めるところです。

2つの入口 ── 自治体と民間団体

自治体の動物愛護センター民間の保護団体
犬の来歴迷子・放棄・多頭飼育崩壊など。記録は施設が持つ範囲団体が預かり、家庭や預かりボランティア宅で暮らしていることが多い
条件「県内在住」など地域の制限が多い。環境省も「条件は各施設により異なる」と記載団体ごとに独自。単身・高齢・留守番時間で制限することがある
手順事前講習会、面談、自宅訪問や飼育環境の確認を行う施設がある譲渡会での対面、面談、トライアル(お試し期間)を設ける団体が多い
費用無料の施設と、有料化した施設がある(環境省の掲載例に「令和2年4月1日から有料化」の自治体あり)医療費・ワクチン代などを譲渡費用として設定していることが多い

どちらが良いという話ではありません。自治体は公的な仕組みの中で、民間は家庭での様子を知ったうえで迎えられる、という違いです。環境省の収容動物検索情報サイトから、各自治体の施設と譲渡会の案内にたどれます。

自治体の動物愛護センターと民間の保護団体。来歴の記録、条件、手順、費用の違い

手順 ── 問い合わせから譲渡まで

施設ごとに細部は違いますが、骨組みは共通です。

  1. 条件を読む ── 居住地、年齢、住まい(持ち家か賃貸か、ペット可か)、留守番時間、家族の同意。ここで合わないなら、別の施設を探すほうが早いです
  2. 問い合わせる・見学する ── 気になる犬がいれば、まず会いに行く。写真と実物は違います
  3. 講習を受ける ── 環境省の掲載でも「事前講習会等の実施」が多くの施設に並びます。飼い方の基本と、法律の手続きの説明が中心です
  4. 面談・審査 ── 自宅訪問や飼育環境の確認を行う施設があります。脱走対策(玄関・窓・柵)を聞かれることが多いです
  5. トライアルまたは譲渡 ── 民間団体では1〜2週間のお試し期間を置くことがあります。合わなければ戻せる仕組みです
  6. 書類と費用 ── 譲渡誓約書、マイクロチップの登録証明書、ワクチンの記録を受け取ります。登録証明書は必ず受け取ってください。 次の手続きに要ります

面談で見られているのは、犬への愛情の量ではなく、逃がさない・手放さない準備があるかです。 脱走対策と、留守番の現実的な時間を、正直に話してください。

問い合わせから譲渡までの6つの手順。条件を読む、見学、講習、面談と審査、トライアルか譲渡、書類と費用

費用 ── 3つに分けて考える

金額は施設と地域で違うので、ここでは「何にかかるか」だけを整理します。

1. 譲渡にかかる費用 無料の自治体もあれば、有料化した自治体もあります。民間団体は、保護中にかかった医療費(ワクチン、避妊去勢、検査)の一部を譲渡費用として設定していることが多いです。内訳を聞けば答えてくれます。

2. 法律の手続きにかかる費用

  • 狂犬病予防法にもとづく犬の登録と、年1回の予防注射。登録手数料と注射料金は市区町村ごとに定められています
  • マイクロチップの変更登録。環境省の登録サイトでオンライン400円、郵送1,400円

3. 迎えるまでにそろえるもの クレート、食器、リード2本(脱走対策で二重に)、フード、トイレ。中身は子犬を迎える前に用意するものと同じです。成犬なら、体格に合うサイズで。

「保護犬は安い」と考えて迎えると、法律の手続きと最初の医療でつまずきます。 譲渡費用が無料でも、迎えたあとの費用は購入した犬と変わりません。

費用は3つに分けて考える。譲渡にかかる費用、法律の手続きにかかる費用、迎えるまでにそろえるもの

迎えたあと30日以内にやること

ここは法律で決まっています。

  • 犬の登録 ── 狂犬病予防法にもとづき、犬を取得した日から30日以内に市区町村へ登録を申請します。交付される鑑札を犬に着けます
  • 狂犬病予防注射 ── 生後91日以上の犬は毎年1回。注射済票を犬に着けます。譲渡元で今年分が済んでいれば、その証明を受け取ってください
  • マイクロチップの変更登録 ── 譲り受けた人は、登録証明書を使って30日以内に飼い主情報を自分に変更します。環境省の登録サイトからオンラインでできます。特例制度に参加している市区町村では、環境省のデータベースに登録したマイクロチップが鑑札とみなされ、鑑札の装着が不要になります(川崎市の説明ページより)
  • 動物病院で健康チェック ── 譲渡元の記録を持って、かかりつけを決めます。体重、歯、皮膚、フィラリアの状態を確認してもらいます

迎えたあと30日以内にやる4つ。市区町村への犬の登録、狂犬病予防注射、マイクロチップの変更登録、動物病院で健康チェック

最初の1か月 ── 来歴が分からない前提で

保護犬は、子犬のように「白紙」ではありません。何を怖がるか、何を経験してきたかが分からない状態で家に来ます。だから最初の1か月は、教えることより、安心を作ることが先です。

時期やることなぜ
1週目静かな部屋にクレートと寝床。家族が順番に近づかない。撫でようとしない触られることが怖い犬がいる。犬から来るのを待つ
1週目散歩は玄関先まで。リードは二重、首輪とハーネスの両方迎えてすぐの脱走がいちばん多い。慣れない土地では帰れない
2週目名前を呼んでおやつ。名前への反応とマーカー「自分の名前=良いこと」を作る。呼び戻しの土台
2週目食事・散歩・寝る時間を毎日同じにする予測できる暮らしが、いちばんの安心
3週目クレートでごはん。数秒出て戻る留守番の練習留守番の不安を、短い成功から積む
3週目触られる練習。足先・耳・口を1秒、おやつ動物病院とお手入れの下地
4週目おいでを家の中で。良いことだけで終わる脱走したときに命を守る唯一の手段
4週目できるようになったこと、まだ怖いものを書き出す次の1か月の計画の材料

叱らないでください。 AVSABは、罰を用いる手法が恐怖と不安を生み、かえって攻撃性を引き出しうると述べています。来歴の分からない犬ほど、この副作用が大きく出ます。唸ったら叱るのではなく、何が怖かったかを記録して距離を取ります。

最初の1か月。1週目は安心と脱走対策、2週目は名前と生活のリズム、3週目はクレートと触られる練習、4週目はおいでと記録

うまくいかないとき

隠れて出てこない ── 正常です。無理に出さず、水と食事と寝床を近くに置いて、同じ部屋で静かに過ごす時間を増やします。1〜2週間で少しずつ出てきます。

ごはんを食べない ── 環境が変わった直後は珍しくありません。譲渡元と同じフードを続け、2日以上まったく食べない、または下痢や嘔吐があるなら動物病院へ。

触ると唸る ── 唸りを叱らないでください。警告が消えて、いきなり噛む犬になります。どこを触ると唸るかを記録して、痛みがないか病院で確認を。触る練習はあご乗せの形で、犬から来る方向に。

留守番で吠える、物を壊す ── 出かける時間が練習より長すぎます。数秒に戻して、泣く前に戻ることをやり直します。犬が留守番できない時の練習法へ。

脱走した ── すぐに警察(落とし物)と保健所・動物愛護センターに連絡し、マイクロチップの登録情報が自分になっているか確認してください。変更登録がまだなら、譲渡元にも連絡を。

相談を考える目安

  • 迎えて1か月たっても、人が近づくと固まる・逃げる・震えが止まらない
  • 家族の誰かに対してだけ、唸る・噛みつこうとする
  • 食事を数日にわたって拒む、体重が落ちている
  • 留守番のたびに自分の体を傷つける

これは「慣れ」の範囲を超えていることがあります。動物病院と、陽性強化で教える訓練士に相談してください。 譲渡元の団体も、迎えたあとの相談を受けているところが多いです。

最後に

保護犬を迎える手順は、思っているより整っています。条件を読み、会いに行き、講習を受け、面談を通り、書類を受け取る。迎えたら30日以内に登録と変更登録。難しいのは手続きではなく、来歴の分からない犬に安心を渡す最初の1か月です。

教えるのは2週目から。1週目は、近づかず、逃がさず、同じ時間にごはんを出す。それだけで犬は「ここは安全だ」と学び始めます。その土台の上で名前への反応とおいでを積めば、あとは他の犬と同じ道です。

まず今日、動物愛護センターの譲渡条件のページを読んでください。そして迎える日が決まったら、子犬を迎える前に用意するもので家を整えておきましょう。

出典