マーカートレーニングの始め方(クリッカー / Yes)
しつけの精度は「正解の瞬間を正確に伝えられるか」で決まります。その道具がマーカーです。クリッカーの音や「Yes」という言葉で、犬が正解したまさにその瞬間を切り取って伝えます。
今日やることは1つだけ。 静かな部屋で「Yes」と言っておやつを渡す。これを10回。所要5分です。
マーカーは「正解の瞬間」を撮る写真
犬は直前の行動をすぐ忘れます。お尻が床についた瞬間に「Yes」と鳴らせば、「今のが正解だ」と正確に伝わります。1秒遅れると、その時にしていた別の行動を覚えてしまいます。
おやつを渡すまでには、どうしても数秒かかります。マーカーはその数秒の橋渡しをする役目です。「正解はさっきのあれで、ごほうびは今から来る」と伝えられるので、手元でおやつを探している間に犬が混乱しません。
詳しい仕組みはマーカー(Yes)の充電で解説しています。

なぜ効くのか
2025年の獣医学の研究で、マーカーを使って訓練した犬は、ごほうびだけで訓練した犬と比べて、少ない回数で課題を覚え、正確さが高く、ごほうびを止めても行動が長く続いたことが報告されています。とくに手順の多い複雑な行動で差が出ました。
一方で、単純な動作ではごほうびだけの場合と差が出にくいことも分かっています。つまりマーカーは「おすわり」だけなら無くても何とかなりますが、あとで難しいことを教えるほど効いてくる道具です。最初に5分かけておく価値はここにあります。
タイミングの目安は行動から0.5秒以内。ここを外すと効果が落ちます。
Photo: Pete Bellis petebellis(CC0, Wikimedia Commons)
クリッカーと「Yes」はどちらがいいか
どちらでも構いません。違いはこうです。
| クリッカー | 「Yes」 | |
|---|---|---|
| 音の一定さ | 常に同じ | 感情や体調でぶれる |
| 手軽さ | 持ち歩きが必要 | 手ぶらでできる |
| 散歩中 | リードと両手がふさがる | 使いやすい |
| 向く場面 | 新しい芸や細かい動きを教えるとき | 日常の練習全般 |
迷ったら「Yes」から始めてください。 手ぶらで始められ、外でも使えます。クリッカーは、お手やおまわりのような芸・トリックで細かい動きを教える段で足すと効果的です。
どちらを選んでも、家族全員で同じものに統一してください。お父さんは「Yes」、お母さんは「いい子」だと、犬にとっては別の合図になります。
Illustration: BAUDOG(生成画像)
充電:音=ごほうびを教える
最初にやるのが「充電」です。マーカーの音とごほうびを結びつける作業で、5分で終わります。
- 静かな部屋で、犬が何もしていない状態から始める
- 「Yes」と言う → 1秒以内におやつを渡す
- 犬は何もしなくてかまわない。座っていても立っていてもよい
- 間隔を2秒、5秒、3秒とバラバラにして10〜20回
「Yes」と言った瞬間に犬がパッとこちらを見たら、充電完了のサインです。 多くの子犬は1〜2回のセッションでここまで来ます。
反応が薄いときは、おやつの価値が足りていないことがほとんどです。いつものフードではなく、ゆでたささみなど特別なものに変えてみてください。
Illustration: BAUDOG(生成画像)
3つの鉄則
- 1マーカー=1ごほうび。鳴らしたら必ず毎回出します。「今のはおまけ」で出さない回があると、マーカーの意味が薄れます
- 短く・一定に。「Yes」だけを、感情を込めずはっきりと。「イエ〜ス、よくできたねぇ」は別の音です
- 順序は Yes が先。おやつを取り出してから鳴らすのは逆。手が動いた時点で犬はおやつを見ているので、マーカーが仕事をしていません
よくある失敗と直し方
鳴らす回数が多すぎる 1つの行動につき1回です。「Yes! Yes! Yes!」と連打すると、どの瞬間が正解か伝わりません。
遅れて鳴らしている おすわりを教えているとき、座ってから「よし座ったな」と確認して鳴らすと、たいてい1秒以上遅れます。お尻が床に触れた音がした瞬間に鳴らすつもりでいてください。
マーカーを呼び戻しに使っている マーカーは「今の行動が正解」を伝える合図で、犬を呼ぶ合図ではありません。呼びたいときは名前やおいでを使います。
叱るときにも音を出している マーカーは良いことだけに使います。混ぜると、犬は音を聞いても近づいてよいか分からなくなります。
充電を飛ばしていきなり使った 音とごほうびが結びついていない状態では、ただの物音です。5分の充電を先に済ませてください。
どのくらいで身につくか
充電そのものは1〜2回のセッションです。ただし「正しい瞬間に鳴らす」のは飼い主側の技術なので、こちらは1〜2週間かかります。
練習法として、テレビを見ながら家族が机を叩いた瞬間に「Yes」と言う、といった遊びが役立ちます。犬なしでタイミングだけ鍛えられます。
セットで覚える「解除語」
止まる・待つ系のコマンドには、「もう動いていいよ」を伝える解除語(ブレイク)が必要です。
マーカーが「今のが正解」なら、解除語は「この姿勢はここまで」。この2つが全トレーニングの土台になります。待てを教える前に、必ず解除語を用意してください。
よくある質問
おやつはいつまで必要ですか 覚えたあとは、毎回ではなく時々に減らしていきます。ただしマーカーを鳴らしたときだけは必ず出します。「鳴らす回数を減らす」のであって「鳴らしたのに出さない」ではありません。
成犬からでも始められますか 始められます。充電のやり方も同じです。すでに別の言葉でほめる習慣があるなら、そのままマーカーに使っても構いません。
多頭飼いではどうしますか 最初は1頭ずつ、別の部屋で充電してください。同時にやると、どちらの行動に対する合図か分からなくなります。
次に進む
道具が用意できたら、名前への反応から実践へ。マーカーと名前ができていれば、アイコンタクト、おすわりと順に進めます。
全体の順番は学習ロードマップを見てください。BAUDOGのコマンドは前提関係で並んでいるので、どれを先にやるか迷わずに済みます。